『殺気!!』 著 雫井 脩介: 「殺意」がテーマ!Nテーマは「能力」ゆったりとした日常の中の影……わかっていても、わからない。そんなハラハラ感を楽しめます。

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その他

オススメできる人

  • 優しい主人公の物語が読みたい!
  • 大学生の青春気分を味わいたい!
  • ミステリーっぽいエンターテイメント小説が読みたい!

最初に

超能力のイラスト(女性)

皆様、こんにちは。

ブログを書いていて、題材が題材だけに「お硬い文章書いているなー」とたまに知り合いに突っ込まれますが、私自身はゲーム、漫画なども普通に好きです。

特にいわゆる”能力物”、王道的に言えば、手から炎をバーって出したり

氷を口からビューって吐いたりする感じのものが大好きです。(映画でいえば、『アヴェンジャーズ』、あるいは『Xーmen』が代表でしょうか?ちょっと違いますけど『ハリーポッター』も近いですね。)

なんで惹かれるのかなと考えたことは何度かあるのですが、やはり「力」と「かっこよさ」がわかりやすく現れるからでしょうか?あるいはキャラクターの能力そのものが、アイデンティティの強調みたいに表現されている部分に憧れを抱いてしまうのかも知れませんね。

さて、今回の本です。

冒頭で説明したようなダイナミックな能力ではないのですが、ある日、とある出来事をきっかけに「他者の殺気を感じる」という能力に目覚めた女子大生の物語です。

突拍子もないことと思いきや、実は彼女の重大な過去の出来事に繋がっている物語であり、目覚めた能力と一緒に過去の事件に向き合っていくことになります。

とはいえ、殺伐とした展開や、運命を感じるような戦いみたいなものが始まるわけでもなく、突如として目覚めた能力に少し不安をいだきながらも何気ない青春やあるいはイベントをこなしながら日々を過ごしていくまったりとした物語でもあります。

しかし、どうしてこの能力を持つようになったか、どうして今になって目覚めたのか。

どこにでもありそうな日常の中にこっそりと潜む闇の中にこそ、真実がありました。全体として、穏やかさを感じる文章ですが、だからこそ油断している、突然「殺気」に驚いてしまうかも知れません。

あらすじ

どこにでもいそうな平凡な女子大生、ましろは、ある日突然、嫌な気配を感じました。そして、直後、とある男性が階段から突き通される事件が起きたのです。

感じた気配はどうやら「殺気」だったようで、彼女は誰かが殺意を持ってつき落としたことがわかったのです。

そう、彼女は他人の「殺気」を感じる能力に目覚めました。そして、ましろの過去に起きた拉致監禁事件……彼女自身はとある治療によって記憶を封印していましたが、どうやら関わりがあるのではないかと疑い始めます。

とはいえ、なんてことのない、普通の女子大生であるましろにそんな能力を活かせる機会があるわけもなく、さらに言えば、誰かに相談できることもなく、バイトやイベント、そして成人式などのごくありふれていて、でも人生に一度あるかないかの経験を重ねていました。

しかし、わずかながらも不定期に起こる不快感……すなわち殺気が彼女を時々襲います。そして、ある事件をきっかけに根源を探っていくと一つの真実が見えてきました。

彼女だけではなく、多くの人に関係する、大きな真実が。

この本のおすすめポイント!!

ましろの優しさに打たれました

人物像などで語るとこの本の一番の特徴ですね。

主人公のましろは一見、どこにでもいそう女子大生で、ちょっと冷めた部分があったり、若干下に見ている人に対しては手厳しいところはありますが、作中で「性善説を信じている」と言われているほど優しさが感じられました。

出会ったばかりの人間、あるいは久々に再会したような友人が成功していたり、あるいは逆に落ちぶれてしまったとしても自分のことのように考え、そして喜び、あるいは心配します。

他の人が敬遠するような粗暴な人に対してもその人が悪口を言われることを嫌ったり、他の人の悪い噂に対しても「なにか事情があるのではないか」と悩んだりと決して状況に流されることはなく、場合によっては「甘さ」ととらえかねない優しさの力を持っています。

「普通じゃない?」と言われるかも知れませんが、これがなかなか難しいものです。

ちょっと話は逸れますが、ドラえもんの映画でこんな名言があります。

あの青年は、人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それが一番人間にとって大事なことだからね。ど

ドラえもん のび太の結婚前夜 しずかのお父さんのセリフより

のび太が間接的に言われたセリフですが、主人公であるましろも似ていると思いましたね。(のび太に似ていると言われて喜ぶ人がいるかどうかは別として作中にのびたっぽいがいます

もちろん、彼女の経験だったり主観が多い部分はあったり、最悪、「偽善」あるいは「独善」と言われかねないような部分はあるかも知れませんが、優しいのは間違いないと言えるでしょう。

そして、彼女の優しさ、そして「殺気」を感じる能力が物語を大きく動かしていくのです。

彼女の優しさは読んでて気分が非常に暖かくなり、この本の読みやすさの一つの理由だと感じました。

現代的な優しさの一つの側面をましろを通じて見ることができたような気がします。

大学生の青春部分にチョイ足し部分を味わえました。

タイトルからちょっと敬遠してしまうひとがいらっしゃるかもしれません。まあ確かに秘密や裏について探るようなシーンもありますが、比較で言えば、大学生としてバイトやイベント参加、成人式といった青春風景が強い本でしたね。

そして、ましろの普通の人とは違うちょっとした能力、そして過去の出来事が物語を深みにはまらせていきます。

大学時代が楽しかった人もそうではない人(←私)も青春気分を自分と重ね合わせたり、理想を思ったりできる内容でした。

後述しますが、殺伐とした雰囲気みたいなものはほとんどなく、エンターテイメント的な部分が多く、共感できたり、自分の実体験と重ね合わせやすそうな場面も多いので上記のましろの性格と重なって読みやすくなっている部分だと思いました。

そして、そんな雰囲気だからこそ、「殺気」を感じることができるのですが、一方で日常に飲まれてしまい、「わかっていてもわからない」隠れ蓑に包まれた敵を相手にしているような不安感も味わえます。

ミステリーやサスペンスが主ではないですが、同じような雰囲気をちょっと味わえる感じですね。

Nテーマ【能力】について考えさせられました。

さてNテーマですね。

今回は【能力】です。

ましろの「殺気」を感じるという能力は、便利といえば、便利ですが無いほうが幸せである可能性も高いです。もちろん自分や大切な人の命は守りやすくなる利点はあると思いますが、一方で何の関係もない誰かの不幸に巻き込まれる可能性も高く、ましてや作中の描写を見るとちょっとした殺気だけでも不快感を生み出してしまうものなので、個人的には欲しいかと言われると正直かなり迷いますね。

ましろ自身は自分能力が持つ奇特性や危険性というよりかは、なぜ、自分がこの能力を持ったのかということを常に考えており、あまり彼女自身の性格もあってか、あまり能力にたいしての抵抗感は薄いように感じました(まったくないとは言いませんが)

巻き込まれたとしても自分のことより相手のことを心配するのがこのましろという少女であり、だからこそ活かすことができるアイデンティティの一種であり、そして「本当の意味での彼女の力」となったのかなと思います。

一見誰もが欲しいと思うようなポジティブな能力でも、やはり人に合う合わないみたいなものがあるのかもしれません。むしろ才能や、能力と言ったものは持てば必ずしも幸せになるとは限らず、その人にあった能力でない限り、むしろ不幸になってしまう……ありふれた話かもしれませんが、つくづく痛感させられました。

……とはいえ、やっぱり能力や強さにあこがれてしまうのは人の性、実はましろではなく、一人の登場人物が強さに憧れ、おかしな方向性へ行ってしまうのですが……この方向性がどうなるのかも【能力】を考える上で良い材料になると思います。

ちょこっとダメ出し

タイトルから緊迫したバトル展開や、あるいはホラー的なおどろおどろしさを期待した方は残念ですが、日常的なシーンのほうが多いです。そこから突如迫る緊迫した空気が醍醐味ですが、人によってはちょっと期待外れの部分はあるかも知れません。どちらかというと日常の中でおきるちょっとした出来事が好きな方にオススメです。

最後に

やや長編ですが、非常に読みやすいエンターテイメント小説でした。上記のダメ出しでもいいましたが、ちょっとタイトルにそぐわない日常風景が多かったですが、本音を言ってしまうとネガティブ的なタイトルは当ブログ的には非常に助かります。すみません。本音が過ぎました。

やはり、青春もの、そしてちょっとした非日常ものが好きな方、そしてやはり終盤のとある理由からポジティブさにネガティブを、ネガティブさにポジティブさを求める方にはオススメできる本であることは間違いありません。

ヒントは、真実と、弱さでしょうか?テーマにはしませんでしたが、この二つも重要な意味を持ちます。

過去の事件などからのそれぞれの人の思い、決して正義というだけではないましろの優しさなど、他にもポジティブ面でもネガティブ面でも色々考えられるものがありました。

殺気というタイトルにそぐわない優しさ、そしてタイトル通りのゾクゾク感、どちらも味わえる小説です。見かけたらぜひ一読を。

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