『死にたくなったら電話して』著 李龍徳 :当ブログテーマは当然「死」、元気なときに読んでください。でなければ、○○の力に飲み込まれてしまいます。

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その他

結論:「死」は恐ろしさとともにある種の魅力を秘めているのかもしれません。初美という女性のように……。

※当ブログでは、作品の考えに合うものを、合わないものを、読むことによる利点になるものをで色分けしています。

最初に

※今回はちょっと前書き無しでいきなり本編の本について語ります。

まず、この本は

純粋な小説であり、カウンセリング的側面は含まれておりません。

したがってもしそういった効果を期待された方は別の本をオススメいたします。

では、どういった本なのかというと……。

一人の青年がキャバクラであった女性に会い、惹かれていく恋愛物語……といえば、聞こえはいいですが、実態は「死」と「生」の存在意義について読者に強く問いかける物語といっていいでしょう。

人を選ぶ本であることは間違いありませんが、

読めば、なぜ生きているのか?を強く問いかけられ、そして人生を否定的になってしまう人がどのような罠に陥ってしまうのか、そして「死」という一見、誰もが否定的に見るものをなぜ肯定的に見る人がいるのかがわかります。

ただし飲まれすぎないでください。誰もが徳山のようになるかもしれないのですから……。

そしてどうか二人を軽蔑しないでください。私達が目をそらしている部分もあるのですから

あと、キャバクラ遊びはほどほどに。怖い女性がたくさんいるかもしれません。

……行ったことないですけど

あらすじ

ある日、徳山(名前はあるのですが、作中はほぼ名字表記です)はバイト仲間とともにキャバクラに来たのですが、突然一人のキャバ嬢に初対面にも関わらず、大爆笑されます。

徳山は困惑しながらも初美と名乗ったキャバ嬢に非常に好かれ、他の客を差し置いて彼を気に入ったような話し方をされたと思いきや離れ、また少ししたら徳山について興味をしめしたりととらえどころのない姿を見せられ、あまりいい気分では過ごせませんでした。

……不可解な初美の言動、そして男女関係にやや不慣れな徳山は彼女に対して「変な人」という印象しか持ちません。

翌日、徳山の部屋からふと一枚の名刺が見つかります。それは昨日、初美と名乗った女性のもので、その裏には一言書かれ山中初美という名前と電話番号、そして

「しんどくなったり死にたくなったら電話してください。いつでも。」

と書かれていました。

徳山は当然、憤りを感じつつ、名刺を放り投げましたが、しきりにかけてくる初美からの電話に根負けし奇妙な付き合いが始まります。そして次第に初美に惹かれていくようになり、二人でいる時間を幸せに感じるようになっていきました。

しかし、大学生活、バイト生活、そして昔の中の良かった友達とのやり取り……初美は徳山の中にある様々なものに侵食していきます。

それは純粋な好意か、それとも……。

おすすめポイント!

初美の強さと魅力と恐ろしさ……そして純粋さ

※画像はイメージです。

主人公として視点となっているのは徳山ですが、この本自体の趣旨は「徳山を通じて初美という女性そのもの見る」と言っても過言ではありません。

外見の美しさの描写についてもわかるとおり、初美は魅力に溢れた女性であり、そしてちょっとグロテスクな本や厭世主義を好む本など集めているように、人生について否定的です。

周りの人間からの評判は突然良くありませんが、そんな評判を全く意に介さず、迂闊に説得しようとすればとんでもない問答をはじめ、相手を論破してしまうほどの強さと賢さ、そして恐ろしさも兼ね備えています(ただ繰り返しますが、「変な人」であることは間違いありません)さらに、この力の強さは後述しますが、徳山に乗り移ってしまうほどです。

どんな人生の魅力に対してもどんなポジティブな考えに対しても揺るがず、ただ人生を生きるデメリットについてのみ語る姿勢……一種の死神と言ってもいいかもしれません。

しかし、一方では徳山に対しては尽くすような姿勢を出しつつ、彼を純粋に「大好きだ」と言い、弱気になっていても否定せず、ゆっくりと寄り添う姿は純粋さも備えているといえ、感情的なようで、論理的でもあるような側面も見せ、やはり理解するのが難しい女性です。

個性的な強さ、好きなものにはとことん突き詰める心情、そして一人の男性を染め上げていく能力……これも一種のネガティブの力と言っても良いのかもしれません。も相対した際には、染め上げられることに注意したいというような強さですが。

実際に、初美を知っていくに連れて、最初は「変な女」としていぶかしげな感情を覚えていた徳山は少しずつ見せていく初美の内面にどんどん惹かれていき、そして周りの反応も気にせず、彼女を特別な人間としてとらえていくことになります。

ちなみに作中ではおそらく初美の対となるように描かれた女性も登場し、まるで天使と死神が両方から語りかけてくるといえるような場面もありました。

そう、あまりにも彼女は徳山には魅力的すぎたのです。

主人公、徳山に迫りくるなにか、断ち切れていく恐怖と期待

画像はイメージです(2回目)

主人公である徳山は外見こそ優れているものの、人間関係、そして受験に何度も落ちるほど能力には恵まれず、そして最初こそ大爆笑されたという件も含めて初美にたいしていい感情を持っていませんでした。(受験に何度も落ちた著者としてはちょっと親近感がわきますね)

しかし、初美に触れ、初美と話し、そして初美に共感したり一緒にすごしていくうちに、次第に周りを驚かせるほどの変化を見せていくようになります。ただし、良い変化ではなく、どこか恐ろしく、儚く、寂しい変化と周囲は感じていきました。

「初美が憑くと描写されるような周りの人間を一切受け付けない強さ、そしてなにか恐ろしいものに徐々に染まっていく恐怖は、作中の人物のみならず、読者にも広がっていきます。

一方で、彼なりの葛藤を見せることもあり、実は、初美に染まったシーンの中で誰かと接したときに、後悔している描写も何度かあります。決してただ無個性に初美に染まっていくわけではなく、徳山自身が周り以上に変化を恐怖しているという描写でもありますね。

全部読み返してみると、彼がところどころ、選択に葛藤を感じつつ、次第に大きくなっていく初美の存在に翻弄されている描写がよくわかっていきます。

ちなみに徳山は割と事なかれ主義なところがあり、誰かと波風をたたせるようなことを嫌うような傾向でした。初美に対しても同じと思いきや、最初に「変な女」とという印象を植え付けられたためか、度重なる誘いなども全く気兼ねなく反発し、そして討論になります。

反発しやすい人間……一見ネガティブな響きに聞こえますが、徳山のように壁を破るのが大変な人間には効果はてきめんでした。それなりにページ数のある小説ですが、はっきり言って、ちょっとご都合展開なども含めたとしても初美に惚れていく速度はあまりにも早かったです。

外側から呼びかけるより内側から、自分で心の扉をこじ開けさせる強さはむしろネガティブよりなのかもしれません。

「死」と「生」について

画像はイメージ……見たまんまででした

タイトルの通り、死について書かれていた本です。

当ブログでもちらほらとりあげていますが「死」についての世間の考えは「必ず訪れるが、人が無意識に避けてしまうもの」という印象があります。

しかし、初美は「死」を積極的に捉え、「生」を否定し、そして何だったら早ければ早いほど良いとまで言うほど、死を受け入れます。そして、次第にその考えに徳山を染めていくのです。

もちろん、自殺を助ける罪、法律で言うならば、自殺幇助は立派な罪であり、相手に死んでほしいと願うことは許されることではなく、人生を生きるためにどうすればいいかは常に考えるべきことです。

では、初美は完全に許されない存在なのでしょうか?いいえ、違います。

なぜなら、初美の存在が必ずしも徳山にとってマイナスだったとは思えないからです。初美が宿った”彼”は生を呪うような言葉を繰り返す一方、今までには考えられないくらい自分の意見を強く言えるようになっていました。そう、まるで別人のように。

月並みな表現ではありますが、このとき一度今までの彼は死んでいるとも称することができると思います。

突拍子もない話でしょうか?

しかし、そもそも「死の力」自体がよく使われている概念でもあります。

例えば、サウナで体調が良くなるのは一種の臨死経験を味わうからという考えがあったり、諺でも「背水の陣」という死を覚悟して絶大な力を発揮するような言葉があります。

「死」に向かう力というのは一種の「生命の力」と言い換えてもいいのかもしれません。そして、「死」を認識しなければ、決してその力は得られないのです。

そして、その強さこそが、この作品の一つのテーマと私は考えました。

徳山自身が最後にこの力について言及しているような描写もあり、初美に染まっていく彼は、強くなったのか、それとも弱くなったのか、単純な議論では決められません。

風力、火力、水力、原子力、太陽光発電……そして人力、世の中には様々な力がいりますが、もし、この「死」の力を人々がただひたすら忌み嫌うような形ではなく、また、初美や徳山のように、ただ完全に受け入れてしまうわけでもなく、丁度いい場所を見つけることができたならば……。

それこそ「背水の陣」よりは遥かに楽に強さを得ることができるかもしれません

もちろん生きているままでです。

ちょこっとダメ出し

やや下ネタ多めです。あと一種の官能描写(そこまで激しくないもの)がありますので人によってはそちらの方に注意が言ってしまう可能性も……。

終わりに

「なぜあなたは生きているの?この先辛いことしかないのに」と延々と問われているような小説でした。

私は読んだ方に厭世主義になってほしいわけではありません。かといって二人を侮蔑して、楽しい人生を自分が送れていることに優越感を抱いてほしいわけではありません

いつか初美という女性に近い存在があなたの目の前に現れたとき、あるいはあなた自身が徳山のように初美に染まりかけたとき、もう一度生きる理由、そして生きる力があるからこそ、前述でも語った「死」の力を真剣に考えてほしいのです。

立派な理由じゃなくたっていいんです。そもそも理屈なんていらないです。

一方、「死」とは離れた彼女の強さについても考えてほしいところがあります。あらゆる生の魅了に対しても一切受け付けず、そして否定することもなく撃退する強さ……ある意味、当ブログでもあげているネガティブ力にも通じるところがあります。

恐ろしい力は取り込まれすぎず、そして魅了されすぎず、ゆっくりと自分の中で咀嚼してください。そして活用するちょうどいい位置を見つけることです。誰かに嫌われるのが怖いならこっそりとこういう本を読んでこっそりと活用しましょう。


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