『殺した夫が帰ってきました』著 桜井美奈:仮初の幸せ、隠された真実……○○がいかに大切かがわかります。

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こんなことに悩んでいませんか?

  • 読みやすいミステリーが読みたいなあ
  • 数々の伏線にはっとなる小説が読みたい!
  • 私は「普通」だから……

結論:「普通」であることに悩む方、あるいは「普通」であることに満足が行かない方にオススメです。

※当ブログでは、作品の考えに合うものを、合わないものを、読むことによる利点になるものをで色分けしています。

最初に

こんにちは。

突然ですが、本を、というより文章を読むときに、一番挫折してしまう原因ってなんでしょうか?

いろいろありますが、やはり書いてあることがわかりづらいというのもあります。

では、読もうとするときに、一番読む気持ちがなくなってしまう原因は何でしょうか?

それは読まなくても書いてあることがわかってしまうと悟られてしまうことです。

矛盾しているようですが、バランスが大事ということでしょうか。

小説でも同じです。展開がわかってしまうと、「お約束を楽しめる」という気持ち(例:水戸黄門)で読まないと途中で挫折してしまい、かといって複雑にしすぎると疲れて読めなくなってしまいます。

丁度いい本が読みたいのになあ……と思ったそこのあなた!!

今回の小説『殺した夫が帰ってきました』をおすすめします!

インパクトのあるタイトルであらすじはほぼわかると思います。もっと言うのならば、一つの物語が終わったような展開から進んでいきます。

しかし、過去と現在が想像以上に複雑であり、読み始めると簡単には先が読めません。しかし、前提はいつもタイトルを思い返せばすぐわかると思います。(まあインパクトが強いのでそんな簡単に忘れられませんが……)文字通り、全ては妻が夫を殺したところから始まるのです。

そして、この本の魅力はただわかりやすく物語に入れるというだけではありませんこの物語を読んでいけば、冒頭の悩みである「普通」であることについて考えることができるでしょう。

あらすじ

アパレルメーカーに勤務する鈴倉茉奈は、職場の取引先の男性である穂高がストーカーと化し、悩んでいました。

ある日、家に帰ってくると、穂高に待ち伏せされており、あわやという事態になりかけます。

茉奈を助けたのは一人の男性、和希。彼は茉奈の夫を名乗り、穂高に諦めるよう忠告を告げ、彼女を助けます。

一方で、茉奈は困惑していました。確かに茉奈には夫がいたのです。しかし、暴力、暴言、身勝手な行動などが原因で耐えきれなくなり……崖から突き落として殺したはずでした。しかし、記憶を失い、別人のように穏やかな性格になって、和希は戻ってきたのです。

かつて自分が望んだ普通、あるいは自分には過ぎると思っていた理想、思わぬ事態に茉奈は困惑しつつも、いつか和希が記憶を取り戻すのではないかと不安に思いつつも彼と一緒に過ごす時間に茉奈は不安定な幸せを感じていました。

一方で、ところどころ挙動不審な行動を見せる和希、そして謎の手紙などから茉奈は不安を感じていきます。

そして、ついに真実が明らかになるのです。全てを失いかねないほどの真実が……。

オススメポイント!

大胆なタイトルで大体のあらすじがわかりつつも、ちょっとずつ増えていく謎、そして不安感と期待感をくすぐられます。

明確なようで不安定な謎が楽しめます。

冒頭でも述べましたが、「主人公、茉奈が夫である和希を殺した」という大きな秘密はすでに読者にもわかっているとおりです。ジャンルとしては「倒叙」(最初から犯人がわかっている物語といったニュアンスです)に近いものがありますが、特に事件解決に向かうサスペンスというわけでありません

少しずつ明かされていく茉奈の過去、夫を名乗る和希の不審な行動、そして迫りくる謎の第三者警察の鋭い疑いの目、様々なものに怯える様子は凶悪な犯罪者ではなく一人の弱者、そして罪人としての不安定で、そしてどこか悲しい生活を語る雰囲気を感じさせます。

そして、明確過ぎる秘密にも関わらず、茉奈にはまだなにか裏がありそうで……かりきっていることですらだんだんと気になっていきます。

この本自体は決してページ数が長い本ではないのですが、最初に大きな謎がわかっており、さらにどんどん謎が追加されていき、真実もまた、少しずつ明らかになっていくので本来の長さ以上のボリュームを感じました。

特に章の最初に始まる”謎の記憶”は読んでいる途中でも、様々な考察をせずにはいられないと思います。

希望を感じられない中の幸福の切なさ

殺人は決して許されることはありません。もちろんDV、いじめ、虐待もです

許されないことをした、というのは茉奈もよくわかっており、それでも辛い過去を乗り越えて、ようやく手に掴めた「普通」という名前の幸福を手放すことができません。

不安を感じながら、そしていつかこの生活が終わることを考えながらも生きていました。

殺したはずの夫、和希が家に戻り、「復讐をしに来たのではないか?」「また不幸な人生に戻ってしまうのではないか?」と思い、警戒はしていました。

しかし、そこで得られた生活は彼女の想像以上に幸福な生でした。自分望んでいた「普通」の幸せよりさらに進んだ幸福……。今まで感じたことがない他の人が持っているかもわからない幸福さに、彼女は嬉しさを感じてしまいながらも自分がこんな幸福を感じて良いはずがないとやはり困惑します。

決して許されるはずがないという希望の中、彼女はどうしていいかわからなくなっていきます。

確かに、茉奈は罪を犯しましたが、決して同情ができない理由ではなく、かといって許される罪でもなく、二つの矛盾点に読んでいるこちら側にも切なさを感じさせます

しかし、茉奈の不幸というのは決して、目に見えるものだけではありませんでした。

彼女は多くの人が当然持っているものを持っていなかったのです。そしてあなたが最後の事実に気づいたとき、切なさという感情が一気に高まるでしょう

「普通」とはなにか考えさせられます。

ブログタイトルの○○の答え、「普通」です。

本作の隠れテーマと言えるべき存在です。茉奈は様々な面では「普通」ではありません。幼い頃に母親に虐待されていたり、和希が客観的に見てもろくでもない男だったり(記憶がない和希もドン引きするレベルです)人が「普通」に得られるものを得られなかったから……というのが冒頭でわかります。

さらには彼女は風邪を引いていても出社しようとしたり、穂高のせいで迷惑がかかってしまったことで自分の責任を強く感じすぎてしまったりどこか「普通」であることに執着するような姿を見せます。

まるでこの世でいちばん大切なものは「普通」であるかのように……。

当ブログでは不幸な人を見せて「あなたはまだ恵まれています」とか「もっと苦しんでいる人がいますよ?」とか慰めをする目的で記事を作っているブログではございません。むしろ「普通」であることの幸せさを理由に誰かを傷つけようとする世の中に対して身を守る方法を本や映画を通じて紹介していると言ったほうが正しいでしょう。

しかし、一方で様々な普通ではない茉菜の環境、そして普通を得られなかった姿を見ていると、やはり「普通」であることの幸福的側面は感じずに入られません。

もちろん「普通」もいいことばかりではありませんが、「普通の人だったら当然得られるものが得られない」という茉奈の事実、現実でもそういう方が多いことを考えると、やりきれない気持ちになることでしょう。

私も障害者として、そして一人の人間として、「普通」とは違う側面が大いにありますからなおさらですね。

結局そういった方々を救うにはどうしたらいいのでしょうか?

普通ではないこと」をもっと理解、勉強し、「普通に戻りたい」か、あるいは「もっと違う道を歩みたいか」を選択できるようにすることだと思います。

ちょうど「普通」をネガティブに言い換えれば本ブログのテーマそのものにもなりますね。

こんなことはそうそう起こらない?いいえ、きっと色々なところで起こっています。

事実は小説より奇なのですから。

そして、この本もまた、「普通」を得られなかった人にどうすればいいかを考えるための一つの答えを知ることができる本でもあると思います

ちょこっとダメ出し

謎が増えるのが良いのですが、ちょっと一気に増えすぎる場面がありますので、混乱するかもしれません。わからないはわからないで読み飛ばすことをおすすめします。

最後に

いかがでしたでしょうか?

圧倒的にインパクトのあるタイトルと対して、繊細に、ちょっとずつ真実がわかっていく様子、そして「普通」を欲する茉奈の様子を見て切なさが感じられる小説です。

ミステリーが好きだったり、あるいは普通」であることに悩んでいる、もしくは周りの人で「普通」であることにも、「普通」でないことにも悩んでいる方がいらっしゃっるのでしたらおすすめします

心が楽になる、というよりは解決策を見つける手助けになるでしょう。

さらにこの小説で予習して、人の気持ちを考える助けになる本、という観点で見れば、「普通」であることに悩む茉奈の姿は、いつか誰かの気持ちを理解することに役立つと信じています。

タイトルに惹かれた方は、ぜひ読んでみてください。きっとタイトル以上の「普通」では想像できない物語が待っています。

気に入った方に、おすすめ本!

『絶対正義』かつて殺した人間が帰ってきたという点でよくにています。こちらはもっと恐ろしい信念がありますが


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