天才は孤独。
誰が残したかはわかりませんが、よく言われていることです。常人には理解できない思考や能力は多くの人を動かす一方、心情的には人と距離を離してしまいます。
孤独さ故に自身の技術や能力を伸ばせるということもありますが、どこか人には理解されないという一面もあるでしょう。
理解者が全くいないということはそうそうないでしょうが、それでも孤独感はあるでしょう。(最も私みたいな才能が全くない人間が天才の苦しみを理解しようとすること自体がおこがましいのかもしれませんが)
とはいえ、距離を離されるだけならまだいいかもしれません。
どんなに、才能があり、人々に称賛されようとも、人種という問題もあります。敬いと軽蔑が同一すると、奇妙な選択肢が浮かび上がり、結果より天才の孤独感を助長させてしまいます。
苦しみを諦める人は多くいます。諦めたらある意味、多くの仲間ができるといってもいいかもしれません。しかし、苦しみと戦う信念を持ってしまうとより一層少数派となり孤独感が強まってしまいます。
もし、その苦しみを変えられるとしたら。
一方的な理解ではなく、相互に理解しあえる相棒ぐらいかもしれません。
今回はそんなお話です。
あらすじ
無学でやや品がないものの、陽気で腕っぷしが強いことから周囲に頼りにされるトニー。ある時、彼はしばらく仕事がなくなってしまい、困っていた時、前職の問題解決能力を買われて黒人の超凄腕ピアニストで富豪であるシャーリーの運転手にスカウトされます。
しかし、黒人への抵抗が強かったトニーは最初は断りますが、中々の好条件、そして愛する家族の生活などを天秤にかけ、彼を演奏会場までシャーリーを運ぶ仕事をすることを決めます。
どこかぎこちなさやお互いにぶつかる部分もあるものの、彼のピアノの腕や気品の高い性格にトニーは徐々に彼を認め、一方で、シャーリーも最初は難色を示していたトニーの生き方をどこか敬う様子を見せ始めます。
しかし、この旅が視聴者に見せるのは、ただただ楽しい珍道中ではありません。
人種の問題が見せる、重く、深く、痛く、しかし、希望の物語です。
非常に対象的な二人の相互理解
富豪と庶民、孤独と家族、野生的と理性的、粗野と冷静、一般人と著名人、そして黒人と白人というこの二人は驚くほどに対照的です。
実際、最初の方はどこかぎこちなく、お互いに戸惑い、更に言うならわずかながらも嫌悪感さえ、見せ、仕事とはいえトニーも渋々と言った感じで運転をしていました。
しかし、最初の演奏からお互いの理解が深まっていき、様々な出来事から関係を深めていきます。理解が深まったからこその反発もありますが、その反発も理解し、相棒と呼べる関係へなっていきます。
雇用主と雇われの身という立場は違えど立派なコンビと言って否定する人はいないでしょう。
天才的な黒人の陰
しかし、例え二人の仲がよくなっていったとしても決して順風満帆なわけではありません。
特に彼が演奏の旅を選んだ地域は黒人の差別が激しく、とても見ていられるようなものではありませんでした。正直言って、演奏をしていただくというよりは演奏させてやると言ってもいいでしょう。
ひどい扱い、言いがかり、理不尽、そしてあからさまに向けられる嫌悪感などなどひどいものです。
その酷さと言ったら……。
家族で見たらこうなること間違いなしです。
一緒に旅をするトニーもまたかつての自分を忘れるほどその理不尽に怒りを示します。
それでもなぜシャーリーが苦しい旅をするのか、それは信念のためでした。より彼を強く、気品高く、そして一層孤独にさせている事情を聞き、途中で仕事をやめそうになったトニーも旅を続けることを決めます。
どこかぶつかり合いながらも旅は続きます。
信念と友情の結末
信念を持ち続けたシャーリーはトニーと確かな友情を持ち、そして揺らぐ時が来ます。
あまりにもひどい仕打ちの数々、ここまでされてもなお、という時、シャーリーが信念と友情の間が揺らぐときが来ます。
もし、彼一人だったら選択肢はもっとシンプルだったでしょう。
しかし、一緒に旅をしたトニーの存在が良くも悪くも選択肢を作り上げました。
最終的にどうなかったかはいつものことですが語りません。
個人的な感想を言うならば、彼の信念は彼一人のものだったときは小さくなり、しかし彼一人の時だったものより強固なものとなったと言っておきます。
総評
大きなテーマとしてはもちろん「人種差別」というのがありますが、同時に「最初の一歩」と個人的には考えています。
わかりやすく、ちょっとネガティブな例えで言うのならば、高卒と大卒というものがあります。
大卒に比べ高卒は生涯年収をはじめとする問題で差が付きやすく、様々なデータや論文をみても幸福度などには差が付きやすくなるでしょう。
しかし、私は多くの高卒ですさまじい実績をあげているスポーツ選手や、社長なども知っているので、決して高卒だから馬鹿にしていいとは思っていません。
(何より今でも何かと教えを請いている学長も高卒ですし、そもそも私が大卒といってもやや特殊という面もありますが)
実際トニーも最初は偏見まみれでしたが、シャーリーの恐ろしいまでのピアノの技術、そしてどこか惹きつける人格をもって黒人の意識を改めていくという一面を見せます。
つまり、偏見を抜け出す最初の一歩を成し遂げたわけです。
ただし誤解しないでください。すごい能力がなければ、偏見から逃れられないと言っているわけではありません。まず偏見解消という大きな問題に取り組むには理解しやすいところから考えるということが大事ということです。
ちなみにあくまで人種の話をしましたが、実はこの映画の中にある偏見は大きな問題から小さな問題まで様々なものがあり、探してみるのも面白いと思います。
才能があっても評価されないという深刻なネガティブ感、そして、だからこそ見える希望を是非見つけてください。
レンタルなどはGEOで
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