『総理にされた男』(著:中山 七里 )を紹介します。国を騙す演技が、ネガティブな○○○が、本物すら超える強さを生み出します。

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最初に

もしも総理大臣になれたら

小学生の頃、憧れた子が多そうなもしも話ですね。そしてどんなことをしたいか、どんなことを決めるかなんて考え、楽しんだりします。

大人になってからは政治の難しさ、大人社会の厳しさ、なにより報道される総理大臣の責務の過酷さなどによってそんな気持ちは消えてしまいます。

そして、政治の無力さ、そしてそんな政治を変えられない自身の無力さにうちひしがれていきます。「何をやっても無駄」「誰がやっても同じ」「むしろもっとひどくなるぐらいだったら今のままでいい」なんてネガティブな感情すら湧いてくるという始末ですね。

最終的には「自分が総理になったほうがまし」とすら考えてしまうかもしれませんね。とはいえ、本当に自分が総理になるほうが良いというよりは、少し極論を言えば、自分がやっても同じぐらい、日本の総理というのは権力的には絶大でも国民の中では存在感がなくなってきているほど無駄でネガティブな存在……と言えるかもしれません。

では実際に一般人が実際に総理になったらどうなるか?それが今回の本である

『総理にされた男』

です。

……そもそも”された”という消極的な言葉からネガティブな雰囲気が伝わってきますね

どんな本か?

総理に顔がそっくりで演技もうまいが、政治知識は0の役者である男がひょんなことから総理の替え玉になり、政治家や官僚、しまいには恐ろしいテロリストとまで、戦っていく物語です。

政治小説と聞くと、堅苦しい言葉や重苦しい雰囲気などを警戒する方もいらっしゃるでしょうが、初心者でもわかりやすい解説、そして、主人公が様々な機転と情熱を活かして戦っていく痛快な物語ですので、むしろ余計な知識などないほうが楽しめるかもしれません。

この本を読めば、きっと、自分は無力であるという劣等感、そして政治に期待できないという感情が薄らいでいくことでしょう。

ちなみになんと、池上彰さんも本の解説をしています(宝島社文庫の場合)。正直、内容のわかりやすさや面白さで語ったとしてあの人に勝てるわけがないので、いつもどおり、ネガティブ活用をしつつ、どのような力に変えられるのかを話していきたいと思います。

あらすじ

売れない役者、加納慎作には一つの強烈な特徴がありました。

それは、カリスマ性溢れて人気があると言われている現総理大臣、真垣統一郎に非常に顔が似ており、そして外見を活かした総理のモノマネが非常に得意である、ということです。

しかし、いくらモノマネが達者で、顔が似ていたとしても自分が成功していない役者であることに変わりはなく、下手に似ているだけに現実の総理と自分を比べてしまい、劣等感や無力感にさいなまれていました。

そんなある日のことです。突然、謎の黒尽くめの男たちにさらわれてしまいます。

行き着いた場所についたのは、国のナンバー2とも言える存在である官房長官、樽見がいました。そして彼は驚くべきことを口にします。

「しばらく総理の替え玉をやってください」

もちろん、政治知識なんて欠片もなければ、国を背負う器もないと自負する慎作は断りますが、国の危機、そして役者としては超高待遇となる与えられた条件で説得されるうちについに承諾します。

こうして、真垣が復帰するまでの条件のもと、彼はある意味、政府公認で総理をモノマネをし続けることになるのです。

しかし……この「演技だけ」「似てるだけ」「政治知識0」の慎作の実直で誠実な行動は思わぬ結果を生み出していきます。「日本人全ての一歩」に変わるといえるほど大きな成果を。

「腐乱した藻のはこびる池に清水を注ぎ込めばどうなるのか。池が清新なものになるのか。それとも注いだ水が汚水に変質するのか」

総理にされた男 大隈のセリフより

おすすめポイント!

汚れた世界で繰り広げられる情熱のハラハラバトル!!

いつバレるのかということもさることながら、政治知識0の慎作が内部とも外部にも戦っていくさまは、非常にスリル感が満載であり、手に汗握るハラハラ感が楽しめることでしょう。

そして本物の総理大臣である真垣としての人気でありながらも、慎作としての純粋さと青臭い感情が周りの人間達ですら突き動かし、たびたび「薄汚い」「まともではない」と作中で呼ばれる政治の世界を一筋の光のように切り抜けていく様は見ていて非常に爽快感があります。

当然、読者は慎作の正体が、ただのしがない芸人であることを知っているのですが、いつしか彼が本物の総理大臣のように、いえ、本物の総理大臣以上に悩み、苦しみ、そして決断してく様を見て、応援したくなってくること気持ちが湧いてくることでしょう。

政治に詳しくない読者、そして慎作だからこそ、先がどうなるのか、どんな解決策で敵を迎え撃っていくのか、非常に共感しやすいながらも予測できない展開という奥が深い面白さを生み出しています。

政治、経済が初心者でもわかりやすく頭に入ります。

冒頭で私も偉そうに言っていますが、私も政治に関してはニュースをちょっとかじったり、あるいはこういった本を読んだりするぐらいで、一般人より少し低いぐらいの知識しかありません。

しかし、主人公が政治のド素人であるためか、読者にもわかりやすく政治の仕組み、経済の影響、そして社会問題について語ってくれます。そして敵が明確になったところで、ようやくスタートラインに立った主人公の戦いが始まるのです。

本が出されたのは2018年、モデルは2015年のようですが、今でも十分為になる知識が満載であり、日本の大きな問題をおおまかでも知っておけば、ビジネスから日常会話、そして選挙の判断基準などにおいて役立つこと間違いなしです。

ただ、一つ注意点があります。

確かに作中ではうまくいくことも多く、理想とされていますが、あなたが理想とするかどうかはぜひ熟考してください。もっといいのは、作中の改革案に対し、あなた独自の利点や長所、そして反する弊害や反対意見を考えることでしょうか。

私の持論ですが、政治に関わらず全肯定、全否定は危険ですし、何より色々意見があったほうが楽しく、そしてより政治らしいというイメージを持てます。選挙の際も一つの判断ではなく、いくつもの判断で考えるのが大事です。

この本を読んで、選挙に行く気にはなったものの、「同じことを言っているから投票しよう」なんて安直に考えて後悔することになりかねません。

もちろん、政治のイメージを持っていくことは大事であり、本小説は、そんな政治の理想的なイメージの一つをあなたに与えてくれて、判断基準として活用していくことができます。

無力感、劣等感について

今回のネガティブテーマは「無力感」「劣等感」です。

政治について特に湧きやすい感情であり、「自分が投票を入れても無駄」「誰がやっても変わらない」という無力感は若者が選挙に消極的な理由と言われている理由の一つでもあります。

では、政治家になったら、そして総理大臣になったら無力感は消えるのかと言われるとそんなことはありません。作中でピカイチの頭脳を持つ樽見も、望まない結果とはいえ総理大臣になった慎作大きすぎる問題、なかなか変えられない現状、そして救えない人々を前に様々な無力感が襲いかかってきます。

力があるから自己の快楽に使い、知識があるからこそ保身に走り、感情を抑えられるから既得権益を守るために変化を望まない。 そんな人物も作中にはいます。

しかし、そんな人間を見て、それが政治家のよくある姿だと慎作は見た結果、無力感を抱いたまま、ただ総理の真似事をするだけでは終わりませんでした。

無力なりにあがいて誠実になり、無知識だからこそ誰かのために全力になり、感情を抑えることが出来ないからこそ、現状に憤りながら変化を望んで行動したのです。

なぜ、そんな力が得られたのか?

それは、無力で無知であるままに、総理になり、そして自分の変えたいものを見つけ理屈などを飛び越えた様々な力を呼び起こしたからです

望んで総理の替え玉になったわけではありませんが、様々な世界を見て、汚れた政治を見て、そして救うべき人達を見て、やるべきことを見て、彼は決意しました。やりたいことが重なったとき、人は変われます。そして無力感、劣等感が強かったときが長いほど、その力はバネのように恐ろしい力で伸びていったのです。

樽見のサポートもありながらも、様々なものと戦い、感情に訴え、理屈ではない手段を行い、無力感を押し殺しているのにも関わらず、感情の望むままに変化を望み続けるその姿は、誰が無力だと批判できるものでしょうか?

作中でも言われますが、「本物でも出来ない」と言われた行動力は、国民に、政治家に、そして読者に希望を与え、考えを変えていくのです。

深く知らなくても良いんです。自分が弱いと思っても良いんです。ただ、自分が変えたい、やりたいと思ったことをできるできないを考えずに探してみてください。

きっとあなたもこの小説を読めば、無力感を変えるバネに変えられる誰かを探したくなる、あるいはあなた自身が無力を変える存在になりたいと思えるでしょう。

ちょこっとダメ出し

正直、政治の物語にしてはちょっと痛快すぎるので、逆に現実の政治と比べて落ち込んでしまうかもしれません……。理想とリアリティが絶妙なのも良いのですが、こういうこともありますね。

最後に

政治について詳しくなりながらも、痛快なストーリーを楽しめ、そして自己変革の大きなきっかけになり得る力をくれる本でした。

総理大臣という仕事は決してポジティブの塊ではありません。むしろ激務や国民のプレッシャーなどからネガティブのイメージのほうが強いでしょう。そんな世界にこれまた強い劣等感や無力感といった感情を持っていた慎作が放り込まれたのですから本作はすさまじいネガティブだらけの物語になってもおかしくはありませんでした。

しかし、彼は二つのネガティブを経つつも、自分の個性、そして内側から生まれた感情を活かし、無力感、劣等感をバネに力強く戦っていきました。そして、多くのことを成し遂げていくのです。

ネガティブなだけでしかない印象である無力感、劣等感が持つ無限の可能性を信じられた小説でした。

併せて読みたい本!

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 著 眞邊明人

この本もまた、理想の政治像を書いている本です。さらにファンタジー色強めながらも、コロナ時勢を描いているのでより現実感は近いです。

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