テーマは「支配」と「??」 きっかけは些細なこと、しかも自分には直接落ち度がなかったこと、すべてを知られてしまう恐怖……『スマホを落としただけなのに』 志駕 晃 

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その他

p391(あとがき有りで403)

オススメできる人

  • 現代技術を活用したミステリーを読みたい方
  • 「秘密」を知る背徳感を小説で味わいたい方
  • 自分だけはちゃんとしているから大丈夫と思っている方

このブログを初めてずーっと思っていたことがあります。

便利さと危険さというのは常に紙一重ということですね。もともと最新技術というのは何かとやり玉にあげられやすいのですが、危険性を語っている場合が大半です。

例えば、なにかの管理をシステムやプログラムに任せたら自分の思いもよらないことが起こったり、あるいはすごい技術を持った人に任せたらより技術を使いこなす人に悪用されてしまうかも……といったことです。

「便利さ」というのは常に「危険」というネガティブを兼ね備えています。空想の話でいえば、クローン技術や時間移動といった大きな危険がつきまといますし、現実でも様々なことに当てはまります。いずれにしても複雑になりすぎると、わからないことが増えて、誰かに任せざるを得ないので、自分で状況を判断するのが難しいのでしょうね。

そして、技術が自分の手を離れてしまった時、隙ができてしまうということです。

今回は現代においてのそんな危険な技術についての作品を紹介いたします。現実離れした描写でもあり、一方で、現代の日本に一番近いミステリーかもしれません。テーマは「支配」と言いましたが、タイトルで分かる通り、主役はもちろん「スマホ」です。

大きな画面のスマートフォンのイラスト

北川景子さん主演で映画化されたのでかなり有名かもしれませんね。

ただし、タイトルから誤解されるかも知れませんが、ただ単に社会問題の注意を促しているだけの本ではございません。もっと奥深くにある闇を描いたゾクゾクもののミステリーです。

あらすじ

ある男が自分のものではないスマホを拾いました。ディスプレイに写っていた美しい女性、そしてたまたまかかってきた電話から「稲葉麻美」とわかった持ち主の彼女であろう人物に興味を持ちます。様々な情報収集を活用し、持ち主が「富田」という麻美の彼氏であることがわかった男は彼女のスマホにある仕掛けをほどこしました。

そう、男はハッカーと呼ばれる情報探索、そしてパソコンのエキスパートでも有りました(余談ですが、ハッカー自体は悪ではなく正義の意味もあるみたいです)彼は時に邪道でありながらも効率的な最新技術、あるいは人の心理を利用した原始的ながらも巧みなトラップを仕掛け続け、彼女のことを少しずつ暴いていきます。

一方で、麻美は恋人や友人と何気ない生活を送り、身に迫った危険には気づいていません。結婚や仕事について悩みつつ、友人とSNSの便利性について話していました。しかし、やがて、彼女の周りにも奇妙なことが起こり始めます。最初のうちは気にしなかったものの、わずかながら少しずつ何かが変わっていく自体に焦りを覚えて始めます。怪しい男たちの存在、さらには目に見えないなにかにちょっとずつ追い詰められているような……

そして、さらなる別の視点、身元不明の女性の死体が山の中で次々と発見される事件が起きて二人の刑事が捜査にあたります。死体を発見できたのもたまたまというぐらい狡猾な計画的犯行は真相に近づくどころか、僅かな手がかりを探すのも困難でした。

「誰かがスマホを落とす」それだけで、考えもしないような恐ろしい闇が彼女に迫っていくのです。

男は何者なのか、何が狙いなのか、そして、別の場所で起こっていた恐ろしい事件の秘密とは……。

視点の高速切替

それはそれは視点がコロコロ変わります。大まかに分けて、主人公である麻美、スマホを奪ったことで裏で動く謎の人物、そして、原因不明の事件を調査している二人の刑事です。

ちょっと大変かなと思いますが、意外と3つの共通点はすぐ繋がっていきます。ただし、だからといって簡単に謎が解けるというわけでは有りません。

バランス具合はかなりちょうどよく、視点が気になったことがあったり、進展があったところから次の視点へ移されてしまいます。ミステリーではお決まりの後を引かせる感じを視点切り替えで強く表していますね。

最初はなかなか大変かもしれませんが、次第に3つの視点から描かれていく秘密や謎が気になっていき、ついつい読み進めてしまうはずです。

ネットの闇 応用編

スマホという情報の塊のような機械の片棒をかついでいるのはやはりネット関係、特にSNSですね。以前から危険性と有用性については何度か語っていきましたが今回ほどブラックなものは初めてです。しかし、今までは「自分は気をつけよう」「自分はちゃんとしているから大丈夫」となる場合が多いですが、応用編である今回は、他の人が原因で自分の情報が暴かれてしまうという非常に対処が難しい問題です。

たった1文字の言葉だけで、悟る人は多くの何かを悟ってしまい、たった1枚の写真で、秘密をいくつも暴く人もいます。(当ブログ書いてても悟られてネタバレにならないか震えております

見られるのが数人だったらまだ危険は少ないですが、不特定多数に見られてしまうということは洞察力やネット技術に関して恐ろしい力を持つ人間に見られてしまう可能性が大幅に増すということです。

そして何が一番恐ろしいかというと、あらすじでも紹介したとおり、主人公である麻美は落ち度という落ち度がなく、恋人である富田が落としたことで、彼女が大変な災いに巻き込まれてしまうことです。

つまり、自分が気をつけていても他の人間が悪意があろうとなかろうと、傷つけられる可能性があるというネット社会の問題を大きく、そして解決が難しい問題です。

このあたりは世の中のネットリテラシーの向上、もしくはセキュリティ面の強化を祈るしかないですね。最も、強いセキュリティからより賢い犯罪者が生まれてしまうこともある以上、完全な安全というのは難しいのかも知れませんが……。

少なくともパスワードやセキュリティの管理をもっと見直そうという気持ちになったのならば、それだけでもネガティブからいい影響を受けたと言えるでしょう。

悟られない悟らせない

ミステリーかつサスペンスである以上、あらゆる所に謎が潜んでいます。現代技術の功罪、人間関係の複雑さ、かなり強力な伏線、フェイント、裏の事件、さりげないヒントなどがあります。そして、冒頭でも述べた「ただの社会問題提起ではない」とも大いに関係しています。

登場人物の多くが怪しさ、そして奥には、大きな闇を抱えています。誰もが怪しさを持ち、誰もが恐ろしいことを考えていることを予想させます。しかし、やはり簡単には悟らせてはくれません。不可解な行動が多くても、「どうしてそうなったのか」という理由が検討もつかなかったりします。

一方で、犯人側はネット技術を活用することで様々なことを理解したような描写を多く見せているところが歯がゆいところです。「麻美」という人物について知ったのは読者も謎の男も同じタイミングのはずなのに、相手ばかりわかってしまうのです。

数々のギミック、少しずつ侵食していく不安、誰を信じていてもいいかわからない、まさに疑心暗鬼の状態、少しずつしか進まずヒントもろくに出ない巧妙な事件と、読めば読むほどわからなくなっていきます。

たまにヒントが出たと思ったらすぐわからなくなり、犯人と確信したとおもったら結局関係なかったり、そして文章中に何気なく出てきた言葉がいつまでも気になったりと犯人の狡猾さと秘密の深さがより、より前へ前へと好奇心を引き立てます。

本の情報だけであなたはどこから悟れるでしょうか?(ネット使うのは言うまでもなく反則ですよ?)

総評

話題になっただけあってかなりの謎と社会問題もかなり巧く組み合わせた問題でした。

「支配」をブログのメインテーマにしましたが、ミステリーということをおいといてもかなり強いネガティブ性があります。ただ、ちょっと他のネガティブを語ってしまうとそれだけでネタバレになる可能性があるので、あくまで作品の総評だけです。

ちょっとずつヒントのようなもの(ヒントかどうかも微妙という意味です)を出しつつ、謎を小出しにし、先が気になる展開にするという昔からあるミステリーの王道、そしてスマホという現代の文明機器をこれでもかというほど活用した作品であり、スマートフォンを持つ人、特にSNSなどをやっている方は特に背筋がヒヤリとするほど恐怖、そして目の離せない展開となっていきます。

あとがきで「途中でやめられない」という褒め言葉がありましたが、決して過大評価ではないですね。

余談

最後のページに参考文献となった本が紹介されていましたが、ブログであげられそうなものが色々見つかりましたので、もし読んでみてビビッと来たら紹介いたします。

もう一つのテーマ

「秘密」ですね。色々な秘密を是非、探してみてください。

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